2011年5月23日月曜日

「教会における聖書の解釈」②

カトリック教会の教皇庁聖書委員会の文書「教会における聖書の解釈」(和田幹男訳)のコメントの二回目です。

今日は『第1部 聖書解釈の方法と近づく道』についての感想です。

先ず第一部のアウトラインをご覧になって頂ければ大体どんな感じかイメージできると思うので載せてみます。

A. 歴史批判学的研究方法
1. 研究方法の歴史
2. 研究方法の基本原理
3. 研究方法の概略
4. 評価
B. 文学性に注目して分析する新しい研究方法
1. 修辞分析(Analyse rhetorique)
2. 語りの分析(Analyse narrative)
3. 記号論分析(Analyse sémiotique)
C.伝承を基礎として近づく道
1. 正典論的に近づく道(Approche canonique)
2. ユダヤ教的聖書解釈の伝統を援用して近づく道
3. 聖書本文の影響史によって近づく道(Wirkungsgeschichte)
D.人文科学を用いて近づく道
1. 社会学的に近づく道(The Sociological Approach)
2. 文化人類学的に近づく道(The Approach through Cultural Anthropology)
3. 心理学的に、精神分析的に近づく道(Psychological and Psychoanalytical Approaches)
E.社会的文脈から近づく道(Contextual Approach)
1. 解放の神学から近づく道(The Liberationist Approach)
2. 女性解放運動から近づく道(The Feminist Approach)
F.ファンダメンタリズムによる解釈

まっざっと見てもらって分かるように「聖書解釈」に関する批評学的方法や解釈アプローチの概観になっています。
時代的に古いものから順に並んでいるとともに、カトリック教会の評価から見て最も評価の高い定着したものから並んでいる、とも言えます。
各研究方法あるいはアプローチの紹介と評価に割かれる紙数も大体それを反映しています。

「歴史批判学的研究方法」は聖書が歴史的文書であることを踏まえた上で欠くべからざるものとしてほぼ全面的にその研究方法の妥当性が認められる。
しかしそれは「歴史批判学的研究方法」で聖書解釈が十分にできると言っているのではなく、本文批評から始まり様式批評のような細かい分析的な手法によって聖書本文そのものの持つ意味が見失われることのないよう、編集史的批評や、《共時的》批評を加えるにことによってバランスされる必要がある。
まっどちらにしてもこの後紹介されている様々な方法やアプローチと比較して「歴史批判学的研究方法」がカトリック聖書解釈の中心になっている印象は否めない。

「文学性に注目して分析する新しい研究方法」では、修辞分析、語りの分析、記号論分析、の三つが紹介されているが、筆者がよく引き合いに出すN.T.ライトやR.B.ヘイズらなどは積極的にこれらの研究方法を新約聖書解釈に援用している。カトリックの学者たちも概ねその可能性に好感を持っており、この研究方法の援用に期待している様子が伺える。

「伝承を基礎として近づく道」も同様「歴史批判学的研究方法」を補完するものとして位置づけられている。特に正典論的アプローチに関しては、
 これは聖書をその全体において受けとめるという信仰の明示的な枠組みから出発して、まさに神学としての聖書解釈の責務に取り組もうとする。
との評価をしている。
(蛇足だが正典論的アプローチで紹介されている、ブレヴァード・S・チャイルドは、Brevard S.Childではなく、Childsである。)

「人文科学を用いて近づく道」と「社会的文脈から近づく道」あたりになってくると、その方法論的有益性をある程度認めつつも、どの程度聖書解釈に貢献できるか問題点の方も具体的に指摘される。概ね一定の評価を与えつつも、あくまで補助的な解釈方法と見ている印象である。
しかし解放の神学アプローチとフェミニスト聖書解釈アプローチに一定の評価を与えていることは、保守的に見えるカトリックとしてはかなりリベラルな見方、と言う感じがする。 


さて、最後に残った「ファンダメンタリズムによる解釈」だが、これは頭から否定的な聖書解釈アプローチとして取り上げている。「・・・ファンダメンタリズムの信奉者の聖書読書法・・・は聖書解釈のあらゆる方法論的努力を拒む。」
筆者の印象では、ここだけ分析と言うか描写と評価が粗雑な感じを受ける。根本主義と言ってもプロテスタントの一部を形成するイデオロギーとしてではなく、宗教改革を根に持つすべてのプロテスタントの聖書解釈に影響を及ぼしているような印象を与える書き方になっていないか。
背景にはこのような反知性主義的「聖書読書法」がカトリック信徒にも影響を及ぼしていることがあるようだが・・・。

さてアウトラインだけ見ると「歴史的批判学的研究方法」と(ファンダメンタリズムは別にして)「最近台頭している解釈技法」の簡単な紹介と評価のように見えなくもないが、これらの解釈技法にある程度の知識がない人には少々不親切な入門紹介と映るだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿