2013年6月21日金曜日

リチャード・ボウカム「イエス入門」

既にこの記事を書いている段階では、現在来日中のボウカム氏の講演会は終わってしまったところだ。

筆者は6月17日の講演会に出席し、会場で(特別ディスカウント)販売されていた本書を購入した。
そして今日午後になって読み出した。

現在2章を読み終えたところだが、読み終えるまでもなくこれは推薦するに値する、と思い記事にしている。

先ず本著冒頭にある「日本の読者へ」という文章から一部引用する。
 本書はとても大きなテーマについての小さな本です。それゆえ限界はあります。しかし小さな本が有益になることもあります。あるテーマについてほとんどあるいはまったく知らない読者にとって、小さな本は理想的です。そのテーマについてすでによく知っている読者にとって、小さな本はそのなかの主要な問題に集中できるよう助けてくれますし、またすでによく知っていることを斬新な切り口から、あるいは新しい光に照らして見るよう助けてもくれるでしょう。
 願わくは本書が、イエスについてほとんどなにも知らない方、イエスについての本をもう何冊も読んでいる方、その両方にとって有益なものとなりますように。

これがこの本の素晴らしさをよく言い表している。
入門者にも(全くのビギナーには少し負荷が高いかもしれない)、ある程度新約聖書学、特に史的イエス研究や福音書研究をしている者にも、どちらにも目配りが届いている。

 入門書であるから読者にそれほど負担があってはいけない。章毎にまとめられている内容も分量も難しさの程度も適切だ。
 背景となる学術的研究の成果に全く触れないと言うほどビギナーなものではない。

 これまで独学独習でこの主題を学んできた者たちにとって、この30数年の研究成果を踏まえたボウカムの抑制の効いた学説・研究・背景紹介は、埋まっていない知識の穴(欠け)を補う上で大変助けになるだろう。
 この30数年の研究成果と言ったが、主にそれらは英語圏でなされてきたものだ。(筆者はドイツ語圏でのものは良く知らないので何ともいえないが)邦訳書に頼って研究している方々には、多分に偏りや歪みが出てきてしまうことがあるだろう。(末尾の参考文献のうち邦訳書は1-2割程度だ。)
 そう言う意味でもボウカムのこの本は二重の意味でよりバランスの取れた史的イエス研究・福音書研究の入門書と言える。

 翻訳は無理なく読める結構質の高いものだと言う印象だ。
 専門外のプロの翻訳者がこなれた日本語で訳すとしても、ある程度学術的な内容を持った本書のような入門書には適さないのではないか。
 その点二人の翻訳者はボウカム氏から直接薫陶を受け、ボウカム氏の人柄を反映したような、控えめで(押し付けがましくない)、抑制の効いた(まくし立てない)、文章に訳している。(つまり忠実に訳したことだろう。)
 既に文章から温かみを感じる(講演会に出席したから余計そう感じるのかもしれないが)。

 かと言って万人受けするか、と言うとそうとは言えない部分もある。
 特に日本においては史的イエス研究・福音書研究において今に至るまで様式史批評学の影響下にあると聞く。
 ボウカム氏は近年その成果を総合的に評価した結果、歴史家としてイエスを福音書を資料として探求するには様式史批評学は(かなりトーンダウンした表現を使っても)「限界がある」との結論に立ち、「目撃者証言」と言うパラダイムから、既に大著を著している。

  まだ2章を読み終えただけだが、既に筆者としてはこの本の有用性は高いと感じている。
 ①説教者にとっての有用性
 日本の牧師たちは牧会的実務で忙しく、なかなか勉強する暇がないと聞く。
 しかるにこの30数年の史的イエス・福音書研究成果をカバーするのは並大抵なことではない。
 この入門書から少しずつその大きなギャップを埋めて行くことが出来るのでは、と言う希望的観測を持った。
 その意味で特に重要なのは、むやみに様式史批評学による研究書を読まずとも、この「目撃者証言」と言うパラダイムからフレッシュにスタートできることである。ある意味後発者の有利と言えるかもしれない。
 ②会衆にとっての有用性
 説教者がもっと統合的な観点から福音書を読み、説教でもそのように語れるようになることがある程度前提となるが、教会会衆が福音書からの説教を聴く時、この入門書を読んでいればその理解度は格段と違うものになるだろう。
 「目撃者証言」と言うパラダイムからアプローチする福音書は聞く者にとって福音書ナレーティブ(語り)がより立体的に聞こえてくるだろう。

 以上簡単に紹介文と言うより推薦文を書いたが、筆者の脳裏には早くもこの本を用いての小グループ読書会の構想が浮かび始めている。
 冒頭の「日本の読者へ」が言っているように、この「イエス入門」はビギナーも中・上級者も混在したグループでもテキストとして使える大変便利な本であろう、と推測しているからだ。(その推測が正しいかどうかは読了まで待たねばならないが。)

 何はともあれ、2章読んだだけでも「推薦文」が書けるほど、本著は「イエス入門」に関し日本語で読める信頼できる好著と言って差し支えないと思う。

 恐らくよく売れる本となるだろう。関心のある方は早めにお求めになることをお奨めする。

 ※読了したので書評を書いた。ご一読あれ。

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