2010年10月25日月曜日

福音主義と宣教

福音主義(Evangelicals)を定義するのは難しい。

「自由主義」に対する「福音主義」と言う場合は、二十世紀の「根本主義(ファンダメンタルズ)」を巡る、主に北米での神学論争として歴史的に跡付けることが出来る。
この際「福音主義」とは、この神学論争から「根本主義」側の「反・知性主義」「文化的隠退傾向」に対して異議申し立てをした次世代の指導者たちで、最初は「新・福音主義者」と呼ばれた。
カール・F・H・ヘンリーはその指導者の一人だった。
彼は確かビリー・グラハムが創立した「クリスチャニティー・トゥデー」誌の初代編集長であり、その後の福音主義のオピニオン・リーダーの一人であった。

もう一つ福音主義を定義する要素に「福音」内容に対する一定の理解がある。
これは歴史的にはもっと遡る。
多分宗教改革の「救済論」を軸にした神学的論争に遡り、その後「個人的、実際的信仰」を強調した「敬虔主義」の時代を経過し、「個人的回心」を強調したリヴァイヴァリズム運動へと繋がっていく流れである。

二十一世紀を迎え、福音主義に基づくグループであると理解されてきた、日本でよく用いられる表現である「福音派」が段々分かりにくい集団になってきているのではないか、と言うのが筆者の率直な感触である。
ある意味「私、福音派です」と言われても安心できない。神学的にも、実践面にしても、本当に歴史的福音主義が固守してきたバックボーンを持っているのか疑われるような、無様な、あるいはプラグマティックな、臭いのする人物やグループが結構紛れ込んでいるように思うからである。

筆者は、福音主義自体が永久不変の神学思想を内包しているとは思わない。
良い意味での宗教改革主義をDNAに持っているのが福音主義だと思う。
聖書において示されている「イエス・キリストにおける神ご自身の啓示」に絶えず基づいて自己省察し、必要とあらば長年守ってきた伝統でも改変する勇気を持つ、それが良い福音主義だと思う。

繰り返すが、ただ「福音派」や「福音主義」を名乗るだけでは主の公同教会の一部として通用する程現状は甘くない。相互に吟味されなければならない。
神学的正統主義をチェックするだけでは不充分である。
その行いをじっくり見て、何が行動基準となっているか、判別しなければならない。
伝道に熱心であるとか、教会が“成長”しているとか、現象面だけで判断できない。
その様な行動を衝き動かしている原動力がどこから来るのかをシビアーに見るべき時代になっている、と言うのが筆者の目下のスタンスである。

ちょうど時期を同じくして二つの「福音主義」のイベントが開催された。
①「フランクリン・グラハム大阪大会」
The Christian Postによると「1,765名の決心者」が与えられ、「30,782名の来会者」があったと報道されている。
ご存知のように四年前の「沖縄フランクリン・グラハム大会」では「反対声明」まで出された中で決行されたが、今回はそのようなことはなかったようである。

②同じくThe Christian Postによると、「ローザンヌ国際宣教会議」で、クリス・ライト師(先日もポストで取り上げた、「N・T・ライト」ならぬ「O・T・ライト」師のこと)は「現在、宣教の障害となっている最大の問題は偶像崇拝」だ、と講演したようである。
師が挙げた三つの偶像は、「権力とプライド」、「人気と成功」、「富と貪欲」である。

当ブログの読者諸氏、ひいては「福音派」を自称する方々、このたまたま重なった二つのイベントの意味合いを良く考えてみようではないか。そして学ぶべきを学ぼうではないか。

2 件のコメント:

  1. 初めてコメントいたします。伊那谷牧師と申します。毎回有意義な内容を書いてくださり感謝いたします。いろいろと学ばせていただいております。私もかねてより「福音派」「福音主義」のくくりの難しさを感じておりましたが、先生の記事を読んで、自分の視点の置くべきところが定まった思いがいたします。
    > その行いをじっくり見て、何が行動基準となっているか、判別しなければならない。
    そのとおりだと思いました。
    フランクリン・グラハムとO・T・ライトの対比をよく考えてみます。ありがとうございました。

    返信削除
  2. こちらこそ初めまして。初コメントありがとうございます。以前から当ブログを読んでいてくださるそうで重ねて感謝いたします。
    毎回有意義とはなかなか行きませんが、思いつくままふらりふらりと書いております。
    福音派の中には現在の福音派の状況を懸念されている方、嘆かわしく思っている方、憂いている方、等色々おられると思います。
    筆者も色々なブログを見渡しながら学んでいる、気付かされている一人で、このテーマに一文を書くことによって「福音派の自己省察」に僅かでも寄与できれば嬉しいです。
    また気付いたことがあればお教えください。宜しくお願いします。

    返信削除