2014年11月6日木曜日

(3)マーク・アムスタッツ『エヴァンジェリカルズ アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義』

マーク・R・アムスタッツ
エヴァンジェリカルズ アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義』(ヒストリカル・スタディーズ11、太田出版、2014年11月)


はどうやら、
Amstutz, Mark R. Evangelicals and American Foreign Policy (New York: Oxford University Press, 2014).


の邦訳のようだ。


本書がアムスタッツの初邦訳とある。

著者のマーク・R・アムスタッツは、福音派の牙城、ホィートン大学の政治国際関係学部・政治学の教授だ。
この本は彼の最近刊となるらしい。

内容は以下のようになっている。(少し面白そうな章だけトピックを表示)

第1章 キリスト教と外交政策

第2章 福音派の本質と起源
 福音主義の発展
 福音派の信徒を特定するには?
 福音派の台頭とメインラインの衰退
 福音主義の組織化
 将来の福音主義
第3章 福音派のグローバルな展開の起源――宣教活動

第4章 福音派の政治倫理

第5章 福音派とアメリカの対イスラエル外交政策
 聖書とイスラエル
 クリスチャン・シオニズムとイスラエルの建国および維持
 アメリカ人とイスラエル
 福音派のイスラエルへのアプローチ
第6章 福音派と世界の貧困

第7章 福音派の外交政策アドボカシー
 国際的な信教の自由
 人身売買への取り組み
 北朝鮮の人権への取り組み
 スーダン和平プロセス
 HIV/エイズの世界的流行
 福音派の政治的アドボカシーについての予備的結論
第8章 福音派の外交政策アドボカシーの欠陥
 気候変動
 アメリカの移民改革
 強制的尋問と対テロ戦争
 核兵器の削減
 結論
第9章 より効果的なグローバルな関わりへ
 教会の政治関与
 より効果的に政治に関わるための原則
太田出版も翻訳者の加藤万里子も聞いたことがないので、それで調べてみる気になり、今回の記事となった。

日本の福音派系キリスト教出版社ではとても手が出そうもない(?)ものを訳してくれていることになるのだろうか。

ホィートン大学のアムスタッツ教授のプロフィールでは、この本は以下のように説明されている。
His most recent publication is "Evangelicals and American Foreign Policy" - a book that describes and assesses the role of Evangelicals in global affairs.

著者は国際関係の諸問題を倫理的枠組みで捉える研究をしているようだ。
In 2005 he published a study, The Healing of Nations, which addresses the challenges of confronting and overcoming regime human rights abuses.

ホィートン大学の「放送局」でこの本の出版に関してインタヴューしたものがある。

※アムスタッツ教授は自身宣教師の子供として海外で育ち、英語を習得したのは高校くらいからだったとのこと。ホィートン大学ではもうかれこれ40年教えていると言う。

この本が取り上げているのは、外交と言っても、広い意味での(福音主義)キリスト教の様々な海外宣教活動のことで、その観点から「福音主義キリスト者は米国の最初の『国際主義者(インターナショナリスト)』であることを主張しているようだ。
Evangelicals were active in foreign affairs since at least the nineteenth century, when Protestant missionaries spread throughout the world, gaining fluency in foreign languages and developing knowledge of distant lands. They were on the front lines of American global engagement--serving as agents of humanitarianism and cultural transformation. Indeed, long before anyone had heard of Woodrow Wilson, Evangelicals were America's first internationalists.(アマゾンから)
確かにリンクにあるインタヴューでもこの点が本書の強調点である、と言っている。

しかし、宣教師たちの活動が福音宣教とともに様々な人道的社会改善の影響を与えたとともに、植民地的主義的(コロニアリズム)影響ももたらしたのではないか、と言う点についてもインタヴューでは討論している。

もう一つ「イスラエル問題」については、福音主義キリスト者のイスラエル支持が高いと思われているが、さにあらず。米国市民一般のイスラエル支持比率の方が福音主義者のそれよりも5ポイント高いそうである。

また、福音主義者のイスラエル支持の背景に前千年王国説があると言われることがあるが、これも統計資料的には余り根拠のない指摘とのこと。


さて太田出版の方の本書説明では、
アメリカは宗教で動いている
◆アメリカ国内に推定1億人の信者を持ち、アメリカ最大の宗教勢力とも言われるキリスト教福音派。聖書の教えを絶対視する保守系キリスト教徒である彼らは、宣教活動やロビー活動、そして草の根の政治運動を通じてアメリカ外交に大きな影響を及ぼしている。
◆彼らはなぜ「アメリカは他国より質的に優れている」と信じ、「世界中で善を実現する特別な任務を持つ」と自負しているのか。なぜイスラエルを支持し、核兵器を持ち続ける北朝鮮に対して人道的支援を行うのか。
福音派の信仰と政治的信条を歴史的に解き明かし、アメリカ外交において果たしてきた役割を示す。
となっている。

近年、(特にブッシュのイラク侵攻辺りから特に?)「キリスト教原理主義」と米国の福音派が近親的に語られる傾向があるが、アメリカの保守的キリスト教勢力が政治的に一色ではないことは、日本のような外の場所から見ていると分かりにくい面はあるのだろう。

この説明を一瞥して、福音派を「未知の一大宗教勢力」とイメージして、潜在的恐れ(threats)を仄めかし、その背景を知っておかなければならない(インテリジェンス)、と言う設定の仕方は幾分「購買関心を引き出す」ためのレトリカルな文面に読める。

少なくとも本書の半分は福音派の「世界に影響を与える」根拠は右派的な価値観だけでなく、人間の尊厳、人権、などリベラルな価値観も含んでいることを主張することで、よりバランスの取れた「米国福音派理解」に繋がるかもしれない、との思いはある。

いずれにしても、本書が一般読者を対象にしている、と言うことで、日本の福音派系キリスト教出版社では出来なかったかもしれない、「距離を置いた関心」を生むことが出来るのはいいかもしれない。

1 件のコメント:

  1. 越智道雄氏は書評でこんなところをピックアップしています。
    「 最も鮮烈なのが、『世界に属さずに世界の中にいる』信徒の在り方で、その根拠は『神の国』が本籍、『地上の国』が寄寓地(きぐうち)という『二重国籍』、信徒の在り様は『巡礼者』と、それ自体イエスの在り様の雛型(ひながた)であることだ。」
    この部分を「鮮烈」だと感じる氏はどうなんだろー・・・。
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015011102000172.html
    こちらに越智道雄氏の書評へのリンクを貼っておきます。

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